2011/03/16

おいしい水

フランスには美味しい水が沢山ある。日本でも見かけるEvian/エヴィアンやVolvic/ヴォルヴィック、鉱泉水のBadoit/バドア、Contrex/コントレックスとVittel/ヴィッテルはヴォージュ山脈の水で、Calora/カローラとWattwiller/ヴァトヴィレールはアルザスの水だ。その他にも多数の種類があって、どれも成分が違うので味も違う。だがこだわらなければ水は水、違いはさほど分からない。また飲み水以外でVichy/ヴィッシーやAvène/アヴェンヌは化粧水として使われている。

ロンドンに滞在していた時、直接の飲水はペットボトルのエヴィアンやヴォルヴィックを買っていた。ある日ホームステイ先のイギリス人がフランスの水「エヴィアン」に気付き、ふんとなって言った。「何故わざわざ水を買って飲んでるんだよぉ。」「だって水道水は・・・」お腹こわすほど繊細には見えないけどね・・・とでも言いたげに、にっと笑って「水道水で充分だよ。ペットボトルの方がプラスチックだし信用できないね。イギリス人はみんな水道水を飲んでるよ。」
最後のフレーズが私の負けん気をくすぐった。「ナイーブなジャパニーズと思うなよ。イギリス人が飲んで大丈夫なら私だって。」ぐぐぐっと水道水を飲んでみた。しばらくしてまたぐぐぐっ。お腹はグルッともいわず平気だった。実際ロンドンの水道水は臭いも変な味もなく、普通の水だった。それから私はイギリス人みんなと同じ水道派になった。後で知ったことだが、イギリス人とは言え、実際は人によりけりのようだ。どうりでスーパーの水売場が大きいわけだ。だがぐぐぐっの勢いにすっかり気を良くしたそのイギリス人は、レストランでも「A glass of Tap Water please」で水道水がもらえることまで教えてくれた。これは無料。お蔭でその分いつもデザートが楽しめた。後で分かったことだが、レストランや同行者によって「水道水」を頼むのは恥ずかしい場合も多々ある。

フランスでも初めはペットボトル水を買っていた。L'eau gazeuse/炭酸水が好みだったこともある。だがミュルーズの水道水はフランスでもきれいな水、安心して飲めること知り、水道水に切り替えた。体のために冷えた飲料水を飲むのは良くない。飲水は常温が鉄則。そうは言っても暑い夏、ペットボトルは一度開けてしまうとプラスチックの臭いがしてしまうこともある。その点水道水は適度に冷えていて常にフレッシュでよい。

水道水称賛ばかりをしてしまったが、ヨーロッパも日本も段々水道水が直接飲めなくなりつつある事実は知っている。その分世界中で水ビジネスの勢いがやたらと良いが、土壌汚染や温暖化が原因でその源泉に問題が出てきたりもしているのが現実だ。

ところで水道と言えば、「水道哲学」という1932年に唱えられた松下幸之助の経営哲学がある。

「産業人の使命は貧乏の克服である。その為には、物資の生産に次ぐ生産を以って、富を増大しなければならない。水道の水は価有る物であるが、通行人が之を飲んでも咎められない。それは量が多く、価格が余りにも安いからである。産業人の使命も、水道の水の如く、物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供する事にある。それによって、人生に幸福を齎し、この世に楽土を建設する事が出来るのである。」

昭和7年、家電は高級品で一般には手が届かなかった。便利な物資が誰にでも手に入ることは人々の幸せに繋がり、この世に楽土が築けると信じれたほど日本は貧しかった。日本だけではない。アメリカもヨーロッパも一般人はまだ貧しかった。物が溢れる現代、人々がより幸せになったか?には疑問があるが、かといって1932年にタイムトラベルしてしまったらどうだろう?ほとんどの人が21世紀の便利さに涙すると思う。只、インターネットでワンクリックすればどんな物資も手に入る正に「水道の水の如く」の今日、実際の水道水が安心して飲めなくなり、飲水を購入しなければならなくなったのは皮肉なことに感じる。先見の明があった松下幸之助も「水道哲学」を唱えた80年ほど前、世界の水事情がここまで急速に変わるとは予想しなかったのではと思う。

"Only after the last tree has been cut down, only after the last river has been poisoned, only after the last fish has been caught, only then will you find that money cannot be eaten."
「最後の木が切り倒され、最後の川が汚染され、最後の魚が釣られて初めて、金銭が食べられないことを知るのだろう。」
こちらは古のアメリカインディアンの予言だ。このまま人間がお金の追求ばかりをしてしまうと、その日が訪れるのはそう先のことではないかもしれない。


注)これは東北地震、津波の前に書いていたものです。公開寸前、自然の力を前に人間は本当に小さな存在でしかないと見せつけられました。でも遠くから日本を見ていて、その小さな存在が冷静に自然の魔力を受けとめ、惨事を何とか乗り越えようと必死で助け合っている姿に心を打たれます。フランスではそんな日本の人々をstoïcisme/ストイシズム(自制心、平静さ、克己心)だと驚き、称賛しています。
がんばれ東北、ニッポン、がんばれる底力を信じています!
どうぞこれ以上の惨事が起こりませんように・・・・。

6 件のコメント:

  1. シャイやぎさん
     おっ!待ってましたア お水のオ・ハ・ナ・シ
    フランスは、美味しいお水がいっぱい!あるんですのネー

    トラ曰く、「お水を買うなんてえー」とスーパーに売り出されたとき思ったワで、全然買う気がしなかった。
    それが何時の間にやら買うようになり、今はご飯炊くとき
    コーヒー お茶に使ってます。
    また寝る前と起きてすぐコップいっぱい飲んでるんヨー
    冷水ダイスキ!
    毎月2ℓを8本は使います。(なるべく安い水を買います)

     あっ!!吃驚 懐かしい幸之助さまのお言葉!!が出て来たア
    そうですソウデス「水道哲学」です。
    (元松下マンドス ワタクシコトデスガ...(*^^)v
    天国でアルザスからのお便りのも載せて貰い大喜びダヨ
    直接お会いさせて頂いたけど 大阪弁 温顔 謙虚な方でした)

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  2. 珍竹林さん
    日本の軟水はコーヒーやお茶が美味しく入れられるそうですね。
    そちらでは六甲の水とかかな?

    こんなに世界が狭かったとは!!いえいえ何かの深い縁でしょうか?私も社会人、生みの親と育ての親が松下です。
    おまけに幸之助さんの命日がバースデーです。。
    直接お会いされたことがあるなんて!珍竹林さんにお会い出来る日が益々々楽しみになりました。
    一晩の徹夜じゃ足りないかも~!

    会社を辞めたら唯の人ですが、烏合の衆にならず、公明正大を心がけております。
    今だに自然と口をついて出てくる自分が怖い・・・!

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  3. シャイやぎさん
    ハ~イ!六甲の水もあります。時々は、飲むけど毎日の事だから、一番安い四万十の水2L6本入り688円のを飲んでます。

    あ~そうだったんですか?吃驚の連チャンね!ホントにご縁!!
    平成元年94歳でしたよネ...ダイヤモンドデスネ トラモヨー

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  4. ということは・・・もうすぐですね。
    これからよい1年になりますように・・!!

    平成元年・・・かれこれもう20年以上にもなりますが
    まるで昨日のことのようです。

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  5. シャイやぎさん

    (^◇^)ありがとうございます。
    そうなんです!ヨー(#^.^#)
    こればっかりは、逆らえません!!

    サムエル・ウルマンの詩 
    「年を重ねただけで、人は老いない。
     理想を失う時に初めて老いが来る。
     青春とは、人生のある期間を云うのではなく、
     心の様相を云うのだ!」

    コレをみて、励まされてます。
    サムエルサマ アリガトウー

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  6. おぉ!大拍手を送りたくなりました。
    弱年ながら私も励まされそう。
    ホント、興味や好奇心、理想や夢って美容液より効く!!

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