2011/03/10

例外の法則

ムッシューCはある特定の人々が大嫌いだ。その批判が始まると誰も口を挟めない。黙って弁熱が冷めるのを待つしかないのだ。これには理由があった。彼は若い頃一人で始めた不動産業で成功した人だ。街のあちらこちらにビルや個別アパートを所有し賃貸していた。一見優雅なこのビジネス、実は大変神経をすり減らされる仕事らしい。物件を買った当時は予想しなかった地区の変貌で借家人も変化し、場所によっては家賃収集に毎たび一苦労。どう催促しても払う気のない借家人には出てもらうしかないが、それがまた簡単ではないらしく、出た後始末にもうんざりさせられてばかり。一度その証拠写真を見せてもらったことがあるが、想像を絶するものだった。空になっているはずの住居内は大型ごみから生ごみまでのゴミだらけ。壁もキッチンもトイレもドロドロ。とても先進国とは思えない有様。嫌がらせに水道管を破壊され、ビル中大事になったこともあるらしい。これらの問題が全てある特定の人々によるものとなると、彼の嫌悪も無理ないように思える。結局彼はこのままでは神経が持たないと全ての物件を売り払い、数年前から50歳前にして引退生活を楽しんでいる。それでも彼の嫌悪感は消えることがない。「彼らとは一切関わりたくない」が彼の口癖だった。

ところがある日のこと、彼の家に訪ねていくと「特定の人々」であろう女性が彼とビリヤードをしている。初め彼の友人の連れかと思ったが、そうではなく彼の友人らしい。少々驚きだった。だがフランスの軍人であるその彼女はとても愛想がよかった。私は初めて出会った軍人の女性に好奇心満々であれこれ質問してしまったが、彼女は気持ちよく率直に答えてくれた。また彼女は彼女で日本人と接するのが初めてだったらしく、日本についても色々興味を持ってくれ、宗教についてもざっくばらんなお互い楽しい時間が過ごせた。ムッシューCも会話に入り、何だかご機嫌だった。

後日ムッシューCの熱弁がまた始まろうとした時、私は思い切って尋ねてみた。「むちゃくちゃに言うけどあなたのお友達はどうなのよ。ほらこの間の・・・?彼女はとってもいい人だった。」すると彼は一瞬のひるぎもなく飄々と答えた。
「あっ、彼女は例外。俺、彼らのことが大嫌いだけど、いいヤツはいいヤツって認める例外枠はちゃんと持ってるんだぜぇ。そうじゃないと不公平だろ。」
「なるほど。恐れ入りました。」
あれほど凄まじく批判していた彼の、私の知らざる「例外の法則」だった。博愛主義とは違う「例外の法則」である。

小さな四葉のクローバー
 民族が違う、宗教が違う者同士の歴史上の恨みは勿論、個人レベルでの恨みが絡むと尚さら水に流すのは容易なことではない。いつの場合もそれぞれにそれぞれの言い分があり、第三者が博愛論を押し付けて簡単に片付けられるものでもないと思う。だがそうした中でさえ、個々が「例外の法則」で目の前の相手を見ることが出来れば、いつの日か真の平和へ歩み寄れることへの期待が持てるように思う。

日本人同士でも同じことだ。人間は何かにつけて線を引き、自分と異なる人を異なるという理由で遠ざけてしまう。出身地の違い、職業の違い、同じ職業でも正社員と派遣社員の違い、同じ会社内でも合併や吸収後はその元の違いによっていつまでも融合が難しいのが現実だ。そんな様子を度々目にしてきたし、実際私自身に降りかかった経験も何度かある。そんな中でも「例外の法則」は無理なく使えるように思う。何より例外の枠を持っているというだけで心に余裕が出来る。周りに流されることなく飄々としていられるし、こちらの姿勢は相手にも影響を与える。次第にあったはずの線が薄れ、その仲間に入ってくる人々の線も薄れていく。人と人としての付き合いが自然に出来るようになれば素晴らしいことだ。有りのままの個人として見ることが出来る喜びは、有りのままの自分を見て貰える喜び以上のものがあるようにも思う。そこまで到達するにはまだまだ長い道のりの未熟な私めではあるが何かにつけて思い出す「例外の法則」であった。

7 件のコメント:

  1. 例外の法則・・例外枠をちゃんと持ってる。一面的に人を見ない、というのとチョット違うおおらかさ。良いですねえ。
    見習うようにします。
     自分をさらけ出すのに躊躇は無いと思いつつ時々すごく身構えてよい格好をしたり、周りの空気に合わせてしまったりする私がいて自分に恥ています。

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  2.  人間って往々にして自分サイドで、物事を考えがちですよネ自分を分かってくれる人は良い友。
    都合の良く無い場合 あの人とは、どうも...と。
    確かにうまが合う合わないは、あると思うワ
    自分も含めて、良い点悪い点はありますネ

    でも、致命的な事以外はなるべく受容できれば、良い関係を保てるようにも...
    とは云うもののなかなかスンナリとは、できませんネー
    まだまだ修行が足りませんワ

     お陰で友には恵まれてるけど、本当に信頼し合える友は?
    信頼してても、ある時点でびっくりするようなことに出くわしだんだん疎遠になることがあります。

     自分と同じ立場に立って考えて貰うって、至難!!ですネー
    先ず相手の立場になって、考えてあげられるようにしなくちゃ

    その前に自分は、いかなる人間であるか!
    大体は、分かっていても...真の自分とは??
    どんな性格なのか? フロイトの精神分析...
    客観的に考えると難しくなります。

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  3. みいちゃんさん
    そうなのです!「チョット違うおおらかさ」が私の気に入っている点です。空気を読むのが上手な日本人からするとフランス人は露骨に感情出し過ぎって思うこともしばしばですが(ラテンですね)、一方あれとこれは別っておおらかにさっぱりしてて、あらら~見習いたいわって思う点も色々です。
    とてもベンキョウ~になります。。

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  4. 珍竹林さん
    何だか行間に言いたかったことを全部まとめていただいたみたいでびっくりです。ほんとに、ほんとにその通りです。
    そして最後は真の自分とは・・・と永遠のテーマに突入します。珍竹林さん、何かこの辺りのこと、お勉強されたことが?
    私はド素人ですが考えるのは大好きです。

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  5. シャイやぎさん
    そんな風に云うて頂き、なんだかテレまする(*^^)v
    読書家の貴女と違い不勉強者ですワー

    ソウナンデス!こう云う事考えるのトラもダイスキナンヨー
    何時の日にかご対面~出来れば徹夜?で語り合いたいです。

    その節は、宜しく(#^.^#)

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  6. あの~
    シャイやぎさーん!
    Facebook なさっておられますよネ?
    トラも 友の強ーい薦めで3月4日に入りました。
    アルザス色の空 リンクさせて頂いてますヨ

    こちらの方でもお喋りできれば、楽しいと思います!(^^)!

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  7. 珍竹林さん
    わぁ嬉しい!お会い出来る日がますます楽しみになります。
    ぜひぜひ徹夜で語り明かしましょう。フロイトも真青かな?

    リンクありがとうございます!でも私、FACE BOOKについて知ってるのは名前だけです。このグーグルもまだほとんどの機能を知らない状態で・・・。ブログがシンプルなのはだからでもあります。。

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