2011/03/06

アルザスのコウノトリ

3月になると日没が6時半を過ぎる。それでもまだまだ気温は低く、曇・雨が続くある日の夕方、どんより重い空をびゅーんとコウノトリが横切った。戻ってきたのかな?今年初めて空で見るアルザスのシンボルだった。

コウノトリはヨーロッパで幸せを運ぶ鳥として、「くちばしに赤ん坊を下げて飛んでくる」「コウノトリが住む家には幸せが訪れる」など縁起がよいとされている。それで私は「幸の鳥」だと思い込んでいたが全くの間違いで、鸛・鵠の鳥と書く。日本では絶滅の危機に瀕した鳥として知られ、最近では兵庫県豊岡市で見ることが出来るようだが、こちらはニホンコウノトリで英語名を「Oriental Stork」といい、ヨーロッパのは「White Stork」と種類が違う。ヨーロッパのコウノトリの和名は「シュバシコウ」でくちばしの赤いコウノトリという意味。その名の通りヨーロッパのは赤いくちばしで、ニホンコウノトリは黒色。ややこしいようだが一般的にはその国の言葉で「コウノトリ」というと、その国に飛んでくる種類のコウノトリを指すようだ。コウノトリは英語でStork/ストーク、フランス語で Cigogne/スィゴーニュ。カタカナで書くと変だがフランス語ではかわいい発音の名前だ。

Cigogne/スィゴーニュは春夏をヨーロッパで過ごし、秋冬はアフリカに渡る渡り鳥だ。近代になって数が激減してしまい、保護の為にスィゴーニュ園や動物園で飼育されているものもいて、これらは旅をしない。身長1m、翼を広げると幅が2mにもなる大鳥で、鶴の繊細美や華麗美に比べるとダイナミック美。「美」というよりは「お茶目」という表現が似合う鳥だと思う。鳴き方も大胆。長い首をぐにゃりと弓なりに反らせ、カスタネットを連打したような「クラックラックラッ」という音を出す。これは「クラッタリング」という求愛行動で、くちばしを打ち鳴らしている音なので、実のところ鳴声ではないらしい。屋根や塔に大きな巣をつくり、雄雌で抱卵する。

Vosges/ヴォージュの山裾に広がる葡萄畑、その中に点々と現れる村々。色鮮やかな木組みの家の赤茶けた屋根、その高いところや教会の塔には Cigogne が大きな巣をつくり寛いでいる。よく見ると小さな赤ちゃんスィゴーニュがいたりする。最もアルザスらしい風景だ。

ある食事会の席でのこと、誰かが思い出したように言い出した。
「そう言えば新聞で読んだんだけど、ポーランドでCigogneのフォアグラが生産され始めたって知ってる?フランス輸出も狙ってるらしい。」
ポーランドもコウノトリが多く見られる国だ。またアルザスはフォアグラ(肥大させた鵞鳥や鴨の肝臓)の特産地でもある。
「Cigogneのフォアグラだって?あんな可愛い鳥をフォアグラに使うなんてひどくないか?」
「そりゃひどい。もともとフォアグラなんて鵞鳥や鴨の虐待じゃないか。Cigogoeにも虐待するのか。許せん!」
「確かにね・・・フォアグラ、だが旨い。それでもCigogneのフォアグラは食べる気がしないねぇ。」
「Cigogneがかわいそう」
皿の肉料理を次々に口に運び、美味しそうに食べながら、食事会の全員がCigogneフォアグラに大反対だった。我等のCigogneをどうする気か!怒りがぐんぐん高まったところ、誰かがふと、
「もしかしてそれ、エイプリルフールじゃない?」
「いや、数日前の地方紙「アルザス」に載ってた!・・・・あれ?4月1日の記事だったっけ。」
ヨーロッパでは4月1日エイプリルフールに各新聞がまことしやかな大嘘記事を載せる。
「やられたなぁ、Cigogneのフォアグラなんておかしいと思った。」
先ほどまでの激しい怒りはテーブルを揺るがすほどの大爆笑に変わった。流石アルザス、Cigogneへの愛情は強い。それを知ってのアルザスらしいエイプリルフールの記事だったのだ。

4 件のコメント:

  1. 長~い太~い嘴 首も長いですネー
    巣も大邸宅ですね!高いところが好きなんだねー安全第一?
    小さな白いお花と合います。
    落ち着いてて、静けさを感じまーす。
    何を考えてるんかしら?

    建物がシックですワ これは煉瓦作り?住宅ではないよネ?

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  2. 珍竹林さん
    大邸宅、ホントですね(笑)建物は、かな~り昔の民家です。
    今は保存建築なので人は住んでませんが、ちょうど神戸の異人館みたいなアルザス農家館みたいなのがあるのです。
    おしゃれな異人館と田舎の農家館、いっしょにしちゃいけないかな???
    今日はとってもいい天気です~!!でも寒~~い。

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  3. お久しぶりの訪問です。お祭りのお話では博多どんたくに興奮するシャイやぎさんを想像し、謝肉祭の登稿が楽しみですモーパッサン、フランス語のタイトル、サブタイトルの解説を面白く読ませていただきました。ひどいサブタイトル。そんな時代だったんですね。さてさて、コウノトリのお話、去年、生野(銀山の)に住む友人が豊岡の飼育園に連れて行ってくれました。絶滅寸前を野生に戻すまでになった研究施設です。地域の農家では農薬使用を止めてコウノトリと共存です。大空に大きく羽ばたく姿は雄大で美しかったです。

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  4. みいちゃんさん
    早速読んでいただきありがとうございます!
    まぁ豊岡に?ネットで知って黒い嘴のコウノトリも見てみたいなぁ。と思っていたのです。コウノトリを救ってくださった研究施設や地域の力、うれしいですね。自然と共存。これからますます大切なことです。

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