2011/04/04

Ecomusée d'Alsace/エコミュゼ アルザス

Ecomusée d'Alsace/エコミュゼ アルザスは「最後の授業」の頃のアルザスがそのまま体験できる、空の下のMusée/ミュゼ(博物館)だ。広がる青空、ぽかぽか春の陽気で野の花が一斉に花開き、桜やマグノリアの硬かった蕾も刻々とほころんでいく。動物達も嬉しそう。ついつい学校をサボってしまっていたフランツ少年の気持ちも理解できるに違いない。

エントランスを潜ると何よりもまず、大きく伸びをしたくなる。そこは百年以上昔のアルザス。車もコンクリートもない世界だ。耳を澄ませば小鳥の歌声とコウノトリのクラックラックラッ、それに答えるように何処からか牛の声が響いてくる。自然と歩調もゆっくりになる。

1989年にオープンしたこのエコミュゼは、新築のために取り壊されていく昔ながらの建築を惜しみ、何とか保存したいと数人のアルザシアンが空き地に移設したことから始まったものらしい。現在ではアルザス中の古い建築(中には15世紀に遡るものも)が70件集められた100ヘクタールもの広さの中、ハーブ園や野菜畑があり、牛やロバやヤギなどの家畜もいて、パン屋や加治屋、散髪屋もある「生きている博物館」で、フランス、ヨーロッパ中から多くの人々が訪れている。

鍛冶屋では職人が、真赤に焼けた鉄を炉から取り出し、トンテンカンテン打ちながら素早く形をつくっている。これはデモンストレーションでもあり、見学者の質問には何でも愛想よく答えてくれる。職人の多くは地元のボランティアらしい。
角の小さな建物の前には、理髪店の円柱サインが立っていた。中に入るとまるで映画から抜け出てきたような主人が髭剃りナイフを研ぎながら、あごを泡で包まれ仰向けに座っている客に向って話しかけていた。志望者に髭剃り体験をさせているところだった。
農家の一角には牛や山羊が住んでいて、時間が来ると乳搾りが始まる。見学の人だかりに緊張したのか、牛のMaitala/マイタラ(アルザス語で小さな女の子)は注目を集めた途端、尻尾を逆立て思いっきりおしっこを飛ばし始めた。ダイナミックさに笑いが起こる。なかなか止まらないがこれも愛嬌。乳絞りの女性はうろたえる事もなく愛牛の用が済むのを待ち、慣れた手つきで乳をほぐすとリズム良く絞り始めた。調子が出ると見学の子供達に変わって体験させる。子供達はおずおず慣れない手つきだが、マイタラはそれでも気持ちよさそうにおとなしくしていた。
桜が満開になった家の中では若々しいおばあちゃまアルザシエンヌが野草のスープを作り、試食と共に材料の色々な野草の説明をしている。香りは野草のハーモニー、口にした途端体中が喜んでいるのが分かるようなスープだった。おばあちゃま曰く、森や野原に行けば何処にでも生えている野草、こんなスープを食べていたら病気なんかしないのよ!そうだろうなと見学者一同納得だ。
明るい黄色の壁の家、ふと裏に回ると大きな孔雀が散歩していた。ツンと頭を上向け「私をご覧!きれいでしょう」と気取った姿、カメラを向けられているのも充分承知のようで、私が主人よ!といった感じで立っていた。その鮮やかな美しさには脱帽だが、エコミュゼの主人公と言えばやはりコウノトリだろう。
木組みの家の屋根にはあちらこちらに大きな巣があり、アルザスの主人公達は気ままに飛んだり、散歩したり、巣でくつろいだりしている。百年以上昔と同じ光景だ。

ミュゼ内にはアルザス料理が味わえるレストランもある。またパン屋では昔ながらの方法で釜を使って焼いている。その味の良さにエコミュゼまでパンだけを買いに来る客もいて、夕方には全部売り切れになる。スタッフがパンを家に買って帰れたことがないと得意げに嘆いていた。ここのタルトフランべ(アルザス風ピザ)も絶品だ。

産業革命以降も文明は発展し続け、その急速さは増すばかりだ。田舎でも砂漠でも携帯が繋がり、PCが使える便利な現代だが、だからこそ、たまには文明のバイブレーションのないところで体と心をのびのびさせたい。歩き回って動物とふれ合い、小さな自然に目を向けてみると日頃忘れていたシンプルな感情が戻ってくる。そんな1日の後は何も考えずにぐっすり眠れる。結局それが人間にとって一番の幸せなのかもしれない。

3 件のコメント:

  1. 素晴らしい活きた博物館!、写真が付くと尚更、訪問者のワクワク感が伝わります。覚えておられますか、以前、まだ夫が居た頃、この博物館のことを知らせてもらった事を。私達は「いつか行こう」と思ったのでした。「数人の心ある人たちの思いから始まった」ことにまず感動します。運営も素晴らしいですね。見学者を巻き込んで楽しそう。良いなあ。

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  2. みいちゃんさん
    覚えています!!
    出来ることなら1番に案内したいところでした。アルザスが
    もっと気軽に来ていただける所だったらいいのにといつも思います。でもあの頃お届けできなかった写真がネットで簡単に…重宝ですね。私は今も、ご夫妻に手紙を書いているようなつもりでブログを書いています。
    航海の合い間、天国にも届いてるのかな~?!

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  3. 届いてますよ。絶対に!!!お気持ちが大変大変うれしいです。ありがとうございます。

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