アルザスに来て間もないとある冬の日、車での帰宅途中、既に暗くなった田舎道からちょうど村にさしかかる辺りでのことだった。暗闇の中、小路からにゅーっと大男が現れ、私達の車にはっと躊躇したものの、のっそのっそと横切ってまた闇の中に消えていった。
「サンタクロース!」助手席にいた私は叫んだ。愛嬌なんぞなかったが、全身を覆う赤いガウンに白いひげ、紛れもない。
「サンタクロースじゃない。あれはサン・ニコラ!」すかさず運転席から更にデカイ声が飛んできた。
「あぁ冷やっとした。サン・ニコラを轢いたら大変だ。だがありゃ飛び出したあっちが悪い。」
「フランス版サンタクロースがサン・ニコラ?」
「違う!サンタクロースはサンタクロース、サン・ニコラはサン・ニコラ、彼は杖を持っていただろう?それに今日はクリスマスじゃない!そうか・・・ということは12月6日か?いかん、マナラを食べる日だ。パン屋はまだ開いてるかな?」
私がよく理解できなかったのは言葉のせいではない。アルザス人にとって子供の頃から誰でも知っているジョーシキはとっさに聞かれても、分からないことが分からないらしい。よって説明がますます分からないものとなる。ということで、まずパン屋でマナラを買って家に帰り、ショコラといっしょに一服できるまで謎解きは待つことにした。喧嘩回避策でもある。
アルザスでは12月6日をSaint Nicolas/サン・ニコラの日といって祝うのが伝統だ。Saint Nicolas/サン・ニコラはローマカトリック教会の聖人で、西暦270~345年実在した人物らしい。常に子供を保護したことから子供の守護聖人として崇められてきた。サン・ニコラを祝うのはヨーロッパでもオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、フランスではアルザス・ロレーヌ地方、スイス、ドイツ、オーストリアなどで、国や地方により伝統は多少異なるようだ。
アルザスのサン・ニコラは片方の手に杖を、もう片方の手にクレモンティンヌ(みかん)を持って現れ、良い子にしていた子供達みんなにクレモンティンヌやマナラを与える・・・ということで、車の前に現れた大男は12月6日仕事前のサン・ニコラの姿だったことになる。そしてこの日はMannala/マナラという人形の形をした素朴なブリオッシュをショコラ/ココアにつけて食べるのが伝統だ。
Mannala/マナラは「小さな善人」というMulhouse/ミュルーズ周辺(南部)のアルザス語だが、Strasbourg/ストラスブール周辺(北部)になると、Manneleとなるようで、残念ながら正確な発音は分からない。同じアルザス語でも北部と南部では微妙に違うと前に聞いたことがある。
さてでは英語のSanta Clause/サンタクロースとは?という疑問が湧いてくる。サンタクロースはオランダ語で言うSaint Nicolasの「シンタクラース」が語源で、17世紀アメリカに植民したオランダ人が「サンタクロース」と伝えたことから始まったらしい。だが所謂サンタクロースが広まったのは19世紀になってから。ニューヨークの神学者クレメント・クラーク・ムーアが病身の子供のために作った詩がはじめとも言われるが、実際には色々説があるようで明確ではないようだ。ただこの頃からアメリカの絵本や詩にトナカイが引くソリに乗ったサンタクロースの姿が描かれるようになり、全世界に広がっていった。
ちなみにフランスではサンタクロースのことをPère Noël/ペール・ノエルという。妙な繋がりだがサン・ニコラとは別物になり、現れるのは12月24日、よってフランスの子供達は12月6日にサン・ニコラから、12月24日にはペール・ノエルからプレゼントがもらえることになる。プレゼントといってもサン・二コラからはバラエティに富んだ現代でも、もっぱらお菓子のようだ。
昨年の12月6日はMulhouse/ミュルーズのデパートにもサン・ニコラが現れた。バスケットいっぱいのマナラを一つずつ、子供だけでなく通りがかりのお客みんなに配ってくれた。手のひらサイズのマナラとは気前が良い。だが日本のようにビニールに入ってリボン付きなんてことはなく、そのままが手渡される。もらったら、口に運んで食べるしかない。デパート内だけど・・・周りを見渡すとそんなことはお構いなし、誰も彼もがマナラを手にし口にし、ぶらぶらしている。これもアルザスならでは光景かなと微笑ましく思いながら私も可愛い「小さな善人」を頭からぺろりと食べてしまった。
サン・ニコラのお祝い、ほほえましいですね。マナラを子供達に、通りがかりの人にも万遍に・・。「6日だった、マナラを買わなきゃ」子供の頃からの楽しい習慣。「私達にも沢山あったなあ、思い出してみようか」そんな気になってきました。
返信削除ハロウィンも似たような感じですが、やはり古くからの伝統は
返信削除味があります。日本にもこんな風習、沢山ありますね。地方によって色々面白そう。
昔からの習慣・・・大切にしていきたいものです。
シャイやぎさん
返信削除今日は、暖かい日でしたネー
只今!読ませていただきました。
可愛らしいマナラチャンのパンですねえー
ショコラ/ココアにつけて食べるんですか~?
なんか甘そう(^u^)
大人も子供も頭からペロリンとは、楽しい光景ですワ
日本は、包装過剰だよネー
つい綺麗なリボンや包装紙を捨てきれなくて、残して置く...
でもあまり後で役に立たない方が多いとおもうわー
ところで、この時期メル友より素晴らしいクリスマスカードがジョン・レノンの歌声と共に送られてくるんですが、(今年はどうかな~?)
フィンランド北部の北極圏にあるロバニエミに位置する、サンタクロースグリーティングセンターから来るんでしょうか???
珍竹林さん
返信削除サンタセンター・・・そうですね。今大忙しじゃないかしら。
でも良い子(?)にしてたらきっと届きますよ~!
過剰・・・同感ですが、日本の包装技術はゲイジュツですね。
私も良さそうなのは取ってます。
そう言えば日本は自分で包装ってあまりないですね。
ヨーロッパはほとんどクリスマスプレゼントは自分で包装です。
不器用には悪戦苦闘の時期でもあります・・・!!