ロンドンに行って初めてのクリスマスのことだ。「ヤギは夢を追いかけてロンドンに行った(実際はそんな大げさなものでは全くない)、今頃本場のクリスマスに浮かれて、はしゃぎまわっとうよ。日本は平日、しかも残業だって言うのに!」日本の友人達は羨ましく忌々しく思っていたらしい。ロンドンで、私もそのつもりでいた。ところがである。クリスマスが近づくにつれ、ヨーロッパのクリスマスは家族と過ごすのが基本であること、25日はロンドンの街全体が休みとなり、地下鉄、バス、列車と公共交通機関も全部運休することを知った。なんてこった!急にクリスマスの華やかさが惨めさを浮き立たせるだけのイルージョンに見え始めた。どうせ私はこの都会に住む外国人。
そんなクリスマス前のある日、フラット(アパート)で日本人同士話していると、友人が言い出した。
「私、クリスマスの飾りって嫌いなんだよね。特にほら、近所の家の前のキラキラしたの、私達はこんなに暖かく幸せよって見せつけられてるみたいでさぁ。」
それぞれ初めての外国暮らし、楽しいといいながら気張ってもいたのだろう。イギリスに居ながらイギリス人社会には入れない、留学生特有のもどかしさを痛感し始めた頃でもあり、皆感じていることは同じだった。
「かえって悲しくなっちゃうよね。マッチ売りの少女みたいな気分。窓の外から眺めるだけ。」
この一言は胸にぐぐっと刺さった。「やめてよー、涙が出てくるじゃない!」
みんな一気にセンチメンタルになってしまい、言葉が消えた。しばらくうるうるした後、やっと一人が口を開いた。
「じゃあさ、いっそやっちゃう?」
「何を?」
「マッチ売りの少女だよ。一番きれいな飾りの家選んでさぁ、窓に並んで中をのぞいてたら、かわいそうって中に入れてくれて、ご馳走振舞ってくれるかもよ。」
「何言ってんのよ。『かわいそう』には私達太りすぎよ。」
「ロンドンの住宅地で変な東洋人が窓にへばり付いてんの?怪しすぎる。マッチでも擦ろうもんなら警察呼ばれるだけだよー。」
センチメンタルは脱し、コメディになって笑いが出てきた。
その後結局フラットの住人7人とも、イギリス人家庭からクリスマスディナーのご招待などなく、全員予定なしのクリスマスだと分かった。それなら、と皆で大家に交渉して共同キッチンをディナー会場にする了承を得、悪戦苦闘ながら自分達で七面鳥を焼いてイギリス式クリスマスディナーを作った。デザートはもちろんクリスマスプディング、誰かが近くのスーパーから買って来た。ローストターキーの作り方なんて誰も知らなかったが、幸い私が数日前見たTVの料理番組が役立ち、出来は上々だった。大変口うるさい大家もかわいそうな留学生達と思ったのか、当日ワインの差し入れまでしてくれた。
ということで期待とは全く違ったが、楽しいクリスマスとなったのだった。今でも青春の1ページのような思い出のひとつである。
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返信削除>それなら、と皆で大家に交渉して共同キッチンをディナー会場にする了承を得、悪戦苦闘ながら自分達で七面鳥を焼いてイギリス式クリスマスディナーを作った。
わぁ~やりましたネー(^v^)
未知の土地へ乗り込んで、またまたトツクニのクリスマスを!
やぎさんは、素敵な体験されましたネー
人生の宝ですヨー
次回は、何処かな~?
珍竹林さん
返信削除メリークリスマス!(本場のクリスマスは今日です。)
日本はいいですね。クリスマスが日曜でもコンビにも
スーパーも図書館まで開いてて、普通どおりの人が
普通にしてる。確かにフツウの日ですもんね。
宝と言えるかどうか?
苦い経験も宝とするなら確かに宝はイッパイです!!!
それなら・・と初めて焼いた七面鳥・・楽しかったことでしょう。苦労も物ともしない、今、イギリスに居る、それだけで幸せ一杯の日々だったでしょ。
返信削除みいちゃんさん
返信削除そんな頃があったなぁ・・・と書きながら思い出しました。
ほんとに青春の1ページみたいな感じです。
結局幸せというのは場所などではなく、一人一人の心の内にあり、
ってことかもしれませんね。