2011/07/06

クジラとイルカ

「映画"The Cove" 見た?ショッキング。是非とも見るべし」
アイルランド人の友人からメッセージが入った時、私はまだフランスにいた。近くにレンタルビデオなんてないし、でもどんな映画かと気になってネットで調べてみた。

The Cove/ザ・コーヴは和歌山県鯨の町とも言われる太地町で、毎年23000頭ものイルカが捕獲され、一部は世界中の水族館に売られ、多くは食用にされているという事実を暴いた映画で、2010年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、全世界が注目したドキュメンタリー映画、ということだった。

海外にいると、必ずどこかで話題になってしまう日本の捕鯨問題、その度肩身の狭い思いをするのは避けられない。個人としてはそれも日本の文化だと思っている。しかも日本人は鯨に感謝し、無駄なく全部食べてきた。豚や牛は食べるのが当たり前で鯨は悪いという理論には納得できない。だが一方で、絶滅する危機にある動物を食べなくても生きていける世の中だから、止めるべきなら止めてもいいのではとも思う。だから国際間で話し合い、調整し、ルールに沿ってやっているではないか、と意見を聞かれたら遠慮なくそう言っている。私自身も子供の頃普通に塩鯨を食べてきたし、お酒は飲めないがオバイケが好きだったりもした手前、「可愛そう」なだけの偽善は言いたくない。

そうしたところある日、フランスのTVで、過激な海洋環境保護団体として知られるシーシェパードについてのドキュメンタリーがあった。反捕鯨については日本だけでなく、ノルウェーやアイスランドといった北欧諸国もターゲットになっていて、過激な妨害を仕掛けられるので捕鯨船にとっては頭を痛める存在だが、リーダーのPaul Watson/ポール・ワトソンがインタビューの中で言った。目の前で子供や女性が暴力を受けていたら見過ごせるか?理屈がどうのこうのよりまず助けようとするのが人間だろう?反捕鯨の闘いはそれと同じだ、と。使命感に燃え、確固とした信念と正義を貫く強さを感じる人だった。闘いが似合う人でもあると思ってしまった。

日本に帰国して、今度は偶然にも2本のNHKの特集番組を見た。「クジラといきる」と「小さな町の国際紛争~太地町とブルーム市の苦悩~」だ。
映画による波紋で、太地町の捕鯨に携わる人々の暮らしが脅かされている現実と、その苦悩、それは遠くオーストラリアの姉妹都市であるブルーム市にまで及び、太地町からの移民が必死で発展させた町という歴史を持つにも関わらず、日本人先祖の墓石が荒らされ、日本との絆が引き裂かれようとしている。またそれに立ち向かう日系子孫達の奮闘も描かれていた。

どちらも憤りと遣る瀬無さでいっぱいになってしまうドキュメンタリーだった。日本にも言分がある。そのまま英語版にして世界に発信出来ないものかとさえ思った。太地町の捕鯨に携わる人々は、高級スーツを着て、高層ビルオフィスに座り、パソコンをクリックするだけで、何十億、何百億を瞬時に稼ぐマネーゲームの人達とは違う。自らの命をかけて労と共に、真面目に仕事に励んできた人達だ。生命を奪う仕事であるだけに、生命の尊さと、生きることへの感謝を日本の文化からしっかり受け継いでいる。そんな太地町の人々に10万円の札束を振りかざし、金をやるから捕鯨を止めろと叫ぶアクティビストこそ、いったい「生きる」ということを理解しているのだろうか。こうなったら映画を見ずにはいられない。

こうして意気込んで観た「The Cove/ザ・コーヴ」だったが、実は観終って、益々何が何だか分からなくなってしまった。TVのドキュメンタリーはフランスTVもNHKも捕鯨に関して。ところが
映画そのものはイルカを虐殺するなと言っている。そして私は日本人ではあるが、日本人がイルカを食べる民族だったとは全く知らない。イルカはクジラ類だが、一般的にはクジラとイルカはいっしょではない。いったい何が何を目的とし、どうなっているのか分からない。

映画ではイルカ肉が鯨肉として売られていると言っていた。だがイルカ肉には水銀が含まれるため、危険であるらしい。また日本政府が公表している情報は都合のよい嘘であり、都合の悪い事は隠蔽しているとも。FUKUSHIMAの件もあり、確かにあり得る事かと思える。だがそうだからと言って正義のストーリー、アクティビストが危険なイルカ虐殺の町に乗り込み、最先端技術を使ってクールにスマートにイルカ虐殺を密撮影するというアメリカ大衆風タッチの映画を全面信じる気にもなれない。そういう意味でこの映画は、世界を扇動し、日本叩きが目的だとしたら(監督は決してそうではないと言っていた)大成功だと言えるが、当事者を始め日本人を説得させるには不十分で、逆効果でさえあったのではないかというのが感想だ。

それにしても物事は視点や立場によって、こんなにもストーリーが変わってしまうものなのか。
文化や思想、慣習が違えば仕方ないことなのかもしれないが、それだけにマスメディアやマルチメディアからの1つの情報で判断することは出来ない、判断してはいけないと強く感じた。
現代社会はインターネットの発達や衛星放送の発達であらゆる情報が氾濫している。公の情報の信頼性は揺らいでいるが、マスメディアといっても視聴率や利益とは切っても切れないのだから、嘘はつかないまでも事実の都合の良い部分だけを強調し、大衆好みに色付けして報道してしまうこともあるだろう。インターネットの情報も、真偽の程は個々の判断に委ねられ、責任の所在はない。
結局のところ、自分の体験でない情報は信頼し切ってしまうな、便利な世の中になったとは言っても、やはり座っているだけで世界を知ることは出来ない、ということかもしれない。

4 件のコメント:

  1. シャイやぎさん
     以前... 太地町に行きました!
    見学用のクジラ船も観て来ましたが、
    太地町のクジラの歴史だったような気がしますが、
    内容の詳細については、忘れてしまいました(*^^)v

     イルカショウも観てきました。
    良く訓練されてるナーと関心しました。
    可愛らしかったデス ジャンプして着水する度に
    スゴイ水飛沫が見学席まで飛んで来ましたワ

     太地町は、長閑な良い所の感じがしましたが・・・
    帰りに、秋刀魚寿司を買ってきたことを思い出しましたヨ
    映画は、観てないけどそんな内容だったんですかアー


     仰せの通り情報が氾濫してるけど、それに惑わされなく
    何が正しいかを自分で考えて行くのが、肝心だと思います。
    (云うは簡単!コレガナカナカ難しいけどネー)

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  2. 珍竹林さん

    コメントありがとうございます!入りましたね。成功かな!

    太地町、実は私も幼い頃に行ったことがあるそうです。
    母から聞きました。幼すぎで全然覚えてないのですが、
    「クジラさんクジラさん」と楽しんでたそうです。

    海辺の長閑な田舎町、TVに映る景色も綺麗でしたヨ。
    クジラ博物館もあるそうですね。現代はどんな巨大魚でもテクノロジーで簡単かもしれませんが、昔はホントに命がけの捕獲だったのでしょう。

    秋刀魚寿司ってどんなのかしら?秋刀魚を生で食べたことがないけれど・・・惹かれますね。
    私は鮪より秋刀魚が好きです!

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  3. 鯨にかんするドキュメンタリーは見ていませんが、文化の違い、生活習慣の違いが多くの場合誤解を招くのですね。外国語を勉強するのはその国の文化を学ぶことでもあるのですけれど、それを忘れて語学の技術的なことばかり・・の外国語教育が現状です。欧米とアジア、発展途上国と先進国、それぞれの事情を尊重した上で世界を見るような報道をして欲しいといつも思います。インターネット上に溢れる情報には私なんぞは手も足も出ません。

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  4. みいちゃんさん

    語学の技術的なことばかり・・・確かにネイティブ並の発音はどうやったら?と聞かれるたびに、私はどこかに隠れてしまいたくなります。が、これからは自己防衛のための英語(外国語)が必要になってくるかもしれませんね。
    何かトラブルがあった時、はっきり自分の意見を短くバシッと言えるってことは、その態度で侮られなくなるってこともありますから。
    でもこれって日本語でも難しいのかな・・・。

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