その後暫らくして、あのトークショーに出ていたシラク前大統領の養女、Anh-Daoが書いた半生記"La fille de coeur" /「心の娘」を偶然本屋で見つけた。同じアジア人として親しみが湧く。思わず買ってしまった。内容は分かりやすい文章で、波乱万丈な人生が明るく笑いを誘うタッチで描かれていた。実は彼女、ベトナム難民だったのだ。フムフム。ベトナムはフランスの旧植民地、要人の誰かの娘を養女として迎えた(助けた)のではないかと頁をめくっていったが、私の想像は全く外れた。
彼女は教育者の娘として裕福に、フランスに憧れを持つ母親の影響を受けながらのびのび育つが、ベトナム戦争を境に、それまでアメリカ寄りで成功してきた父親の絶望、北と南というだけでのベトナム国内での差別の中、就職難、貧困と苦労を強いられ、とうとう難民として運を天に任すべく、家族と別れボートに乗り込み祖国を脱出する決意をする。
これまでベトナム戦争のことについては、映画やドキュメンタリーなどで少しの知識はある。だが良く考えてみると、これらは皆アメリカから見たベトナム戦争でしかない。ベトナム人から見たベトナム戦争は実際この本が初めてだった。
ボートはベトナムを脱出したものの、マレーシアの難民キャンプで2年待たされる。その間にも病気、死、飢餓が難民仲間を襲うのを目の当たりにし、それでも彼女は生きる希望を強く持ち続け、やっとの思いでフランスに入国、シャルルドゴール空港で歓声をあげ喜び合う難民の中、何故か一人泣いてしまう。その時、当時パリ市長だったムッシュー・シラクが通りかかり、彼女を養女にと決めるのだ。彼女自身、ムッシュー・シラクを知っているわけではないし、翌日本当に現れるまで半信半疑だった。1979年彼女は21歳。それからはやさしいマダムとムッシュー・シラクの養女としてのおとぎ話となる。
シラク前大統領の政治的な顔は別にして、養女を迎えた家族の父親としてのムッシュー・シラクと母親としてのマダム・シラクはとても温かく、思いやりの深い人だ。少し年下の実の娘達との分け隔てをしない心配りにも胸が熱くなる。また一言もフランス語を喋れない彼女への厳しい思いやり指導も心憎い。フランス人の大らかな人間愛だろうか。血にこだわる日本人の気質とは違う面があるように思う。
年齢を重ねるたび、自分に流れる血なるものを強く感じる今日この頃だが、血だけではない限りない愛情というものがあるのも頷けるし、信じたい。地球の裏側から来た子をわが子として迎える。そうすることで人間を一人救えるのならこんなに素晴らしいことはないかもしれない。とは言え、さて自分に出来ますか?と問われると、情けないが正直ノーとしか言えない。だからでもある。肌の色の違う子供をもつカップルを見かける度、素直に敬服し、その家族の末永い幸せを心から願いたくなってしまうのだ。
良いお話。最近は人との関わりの中、「めぐり逢い」「巡り合わせ」について思うことが多いです。このお話も不思議なご縁で結ばれていると思い読みました。人種的偏見を持たない知性ある、心豊かな人たちが里親になられるのでしょうね。西洋ではご自分の子供がいても里親になられる人が多いのですってね。きっと、お互いが学びながら成長しながらの生活と思います。素晴らしいことですね。でも日本人は血を重んじる国民性がこういうことには中々・・・。ところで
返信削除Anh Dao ってどう発音するのですか。フランス読みでも英語読みでもどちらでも良いです。よろしく。
みいちゃんさん
返信削除Anh Daoはベトナム語なので確信が持てず、カタカナ表記を避けてしまいましたが、アンダオもしくはアインダオとなるようです。
巡り合わせ、血縁・・・最近見たフランス映画をオススメしたくなりました。日本語タイトルで「約束の旅路」この映画の中で、学校の偏見ある親達の前で、里親が養子をかばうシーンはブラボーです。どうやって庇うかは見てのお楽しみに!
機会があったら是非ご覧下さい。じ~んとくる映画です。
名前の件、ベトナムってすごく優しい印象の国ですよね。こう書いて、こう読むんだ。知的好奇心(大げさな)をくすぐります。
返信削除映画:是非みたいです。映画情報検索します。ありがとうございます。
ヨーロッパに住んでいて、私もベトナム、ベトナム人には良い印象です。それで訪れてみたい国の一つにもなりました。
返信削除静かな優しさのある人々です。
ベトナム・・・でもう1本映画をオススメさせてください。
「インドシナ」フランス映画です。90年代かな。カトリーヌ・ドゥヌーブの母親役の演技も見ものです。
話題になったのでもしかすると既にご存知かも知れませんが・・・。