2011/11/06

M氏へ

「今頃どの辺りだろう」
M氏を想う時、私はいつも七つの海に想いを巡らす。
旅好きだった故人を偲ぶにはロマンがあって、想像が広がる。
遥かな海を航海中、だがメキシコ湾流に乗って意外と近くにいらっしゃるのかも・・・ダブリンでカモメの鳴き声を聞きながら、ふと思ったこともある。

「海に撒いて欲しい」
「何で?」と尋ねる夫人に
「そりゃあ、気分が良いじゃないか。それに海なら世界中何処にでも行けるよ」生前M氏はこう答えたらしい。
初めから賛成だった訳ではない夫人だったが、海へ旅立ちの時には、ポルトガル旅行の思い出であったエンリケ航海王子の帆船を手作りして見送ったということだった。なんて粋な船出だろう。氏がエンリケ王子の船の帆を張って、大海をぐんぐん進んで行く様子は想像しただけで楽しくなる。
氏の心意気に夫人の優しさ、私にとって永遠のベストカップルである。

 私が実際M氏にお会いしたのは一度きり、フランクフルト空港で日本への便を待っていた時だった。
ふとした事から会話が弾み、何故だか住所を交換し、そして手紙を書くようになった。
「又、お手紙ください。貴女の手紙は味が良くて楽しい」という褒め言葉にすっかり気を良くしてしまったのが正直なところだ。旅行好きという共通点以外、お互いのことは何も知らなかったが、だから思ったままを素直に書けた。そしてそれを夫人と共に読んでくださり、面白いと感じてもらえたと分かると、無性に嬉しかった。いつの日か大好きなアルザスを案内したいなぁ・・・だがM氏の旅立ちは早すぎた。今年で7年になる。それでも今、氏の存在は過去のものではない。航海中なのだ。
世界中何処にでも行けるから、世界中何処にいてもお見通しとなる、そんな気がしている。

今年始めのことだ。久しぶりに声を聞いた夫人から、いきなりブログを勧められた。ちょうど私はアルザスで、自分の日本語に不安を感じ始めた頃だった。1年以上全く日本語を使わない生活をしていると、たまに日本へ電話をした時、言葉がスムーズに出てこなくなる。ブログは日本語の良いリハビリにもなるなと、思い切ってやってみることにした。アルザスについて、とにかく手紙を書くように書いてみよう。そうだ、あの頃のように・・・。始めてみると、自分でも不思議なくらい次々に書きたいことが浮かんできた。「その調子、次も楽しみにしてますからね」夫人の支えは大きな原動力だった。単調になり始めていたアルザスでの生活が、活き活きと輝きを復活した。写真も撮りたい。毎日が急に忙しく、楽しくてたまらなくなった。その上ブログのお蔭で、気になりつつご無沙汰していた方とやりとりが出来たり、新しい友達が出来たり、嬉しいハプニングも起こった。日本に帰国しても日本語がスルスル問題なく出てきた。

先日何年もぶりに夫人と再会し、博多の街を案内することが出来た。M氏の妹君とは待望の初対面だったが、不思議と‘初めて’な気が全然しなかった。
「それにしても女同士、よーしゃべっとる。」
全てお見通しのM氏とはいえ、ここまでとは想定外だったかもしれない。
生憎の雨も「より良い情緒」に変えてしまう天性の旅上手な夫人と妹君、案内するつもりがいつの間にか、私自身がすっかり楽しんでしまっていた。何を見ても楽しい学生時代の旅行のようなエキサイティング感さえ漂っていて、これぞ旅上手のエスプリなのかもしれない。

最後の夜、博多の街は灯明ウォッチングの催しで彩られていた。東長寺本堂、間近でみる山鹿踊りの幻想的な灯篭の中、私は静かに手を合わせ、この不思議な縁に心から感謝した。

8 件のコメント:

  1. シャイやぎさーん!

    待ってました。博多ご案内記!!
    毎日マイニチ アクセスシトリマシタンヤデェー(関西弁分かるゥ?)
    冒頭の書きだしから胸キュ~ン...
    読むほどに心打たれました(=_=)

    トラも同感!!
    初めてお会いした感じではなく、以前から気心知れたお友達感覚!
    なんの躊躇することもなく、するすると気持良くお話ができ、
    我ながら吃驚仰天でしたワー(^v^)

    本当に不思議と申しましょうか...
    貴重なご縁ですワ

    これからも仲良しになってくださいネー(^_-)-☆

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  2. 珍竹林さん
    お久しゅうございます。(ニッ)
    毎日アクセスシテモライヨッタトデスカ、ソリャア、ウレシカー。

    博多案内で、次回また良い題材があります。
    博多が分かるからなお面白い!ですのでご期待ください。

    ホントに不思議で貴重な縁、こちらこそ、これからもどうぞよろしく
    お願いしますメェ。

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  3. お心使いいただき有難うございます。平凡な夫婦だった私達のことをこんな風に、しかも11月に書いて下さったことに感謝です。フランクフルトの短時間の出会いがここまで発展するとは・・人の縁の不思議ですね。

    博多での楽しい3日は名ガイドのおかげ、本当にお世話になりました。茅乃舎の生け花、さすが~~~。またお会いしましょう。

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  4. みいちゃんさん
    快くOKくださりありがとうございました。良いタイミングになり
    私もうれしく感じています。

    楽しかったですね!
    久々地元博多の街を歩き回り、私にとっても新発見があったり。
    色々な発見はやはり歩いてが一番ですね。
    以来ちょくちょく散歩に出かけています。

    はい!私も次回お会いできるのを心から楽しみにしています!

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  5. いつも感心に読ましてもらってますが、そろそろ文筆家も
    目指せるのでは!
    いろいろな旅と出会いと体験などを組み合わせれば、
    「人生の楽しみ・・出会いと見聞」纏められますよ。
    11120118RIO

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  6. rioさん
    rioさんからそんな風に言って頂けるなんて、何と光栄なことでしょう。
    パタリと何も浮かばなくなって、暫らく沈黙してしまいましたが、
    また書かずにはいられなくなりそうです。いつの日か・・・大きすぎる夢ですが、夢は大きすぎるぐらいが楽しいかな。

    rioさんのお人柄より、お言葉全て「お世辞」ではなく真摯に受け止めさせて頂きました。うれしくて木に駆け登ってしまいそうです!
    落ち着かなくては!

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  7. 久しぶりに拝見させていただきました!
    お元気そうで、何よりです。
    ただ今、異国の地で言葉の壁と生活環境の違いに悪戦苦闘しながら日々過ごしている私ですが。。。
    懐かしさで心癒されます。
    私も楽しみにしていますので、いつか・・・(^_^)

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  8. haru mamaさん
    お久しぶりです!!
    異国の地で言葉の壁と生活環境の違いに悪戦苦闘・・・今の私には
    羨ましい限りです。もちろん大変なのはよく承知しておりますが、
    でもきっと闘う面白さが出てくると思いますヨ。その辺仕事といっしょかな?懐かしいですね~。いつか是非!とっても楽しみにしています。思い出話+いろんな奮闘話を聞かせてくださいね~。

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