2011/08/07

オーストリアへ リンツ

Linz/リンツはザルツブルクとウィーンの中間に位置するドナウ川沿いの商工業都市だ。表情豊かなアルプスの山景色の虜になってしまうと、都会が近づくにつれ、なだらかになっていく風景にがっかりしてしまう。またヨーロッパ中どの国でも言えることだが、工場が発達してしまった都市は、栄えた街であっても、どこか殺伐とした印象を受けてしまう。リンツもそんな街のひとつだった。
だがそれとは別に、この地で私達は期待以上の素敵な目的達成が出来た。そもそもなぜリンツに立ち寄ることにしたか、それはアルザス名物のTarte de Linz/タルト・ド・リンツの故郷だからだ。「リンツのお菓子」というこのタルトは、ドイツ語でLinzer Torte/リンツァートルテ、アーモンドの粉末と、シナモンやナツメグなどの香辛料を入れた生地に、ラズベリージャムをたっぷりはさんだ焼き菓子だ。アルザスではケーキ屋は勿論、ベーカリーでも良く見かける。店によって生地がソフトだったり、クッキーのようだったり、またラズベリージャムの食感にも違いがある。こんなに美味しい菓子だから、遠くオーストリアからドイツ、スイス、アルザスへ伝わったのだろうと想像できる。折角オーストリアを訪れるのなら、一度本場リンツでオリジナルのタルト・ド・リンツを食べてみたい、これが私達の目的だった。

さて車を降りて、早速メイン通りから探索を始めた。路面電車の行き交う通りの両側に、流石本場だ、あるあるリンツァートルテの看板。ウィンドー越しに綺麗な箱に詰められた丸いトルテが並んでいるのが見える。それはまるで、大宰府天満宮の参道に並ぶ梅ヶ枝餅屋のよう。大宰府といえば梅ヶ枝餅のごとく、リンツといえばタルトなのだろう。だが、私達の目的は土産品として買うのではなく、味わうことにある。裏通りに入ったほうが良いという直感に導かれ、通りを逸れてみた。暫らく当てもなく、だがアンテナはピンと張って歩いていくと、そのカフェは現れた。リンツに行ったらと描いていたそのままの、雰囲気あるカフェだった。

店を入ってすぐはベーカリーだった。手作りの美味しそうなパンが棚にずらりと並んでいる。ウィンドウの中には菓子パンやケーキ。目移りしそうなのを抑え、「リンツァートルテはありますか?」と尋ねると、「ありますよ。カフェは奥へどうぞ」女性が笑顔でカウンターの横手を指した。カフェはこじんまりした広さで、地元の老紳士が新聞を読みながら、ゆっくりコーヒーを飲んでいる。店の男性ともお馴染みのようだ。読み物は新聞だけではない。ドイツ語なのでさっぱりだが、それでも面白そうな写真集や歴史の本が並んでいて、インテリアの一部になっている。壁には古い地図や写真、何だか歴史を感じるカフェだ。運ばれてきた「リンツのお菓子」を堪能していると、それまで寛いでいた周りの客が、次々と会計を済ませ帰ってしまい、店はがらんと私達だけになってしまった。
「閉店時間ですか?」
「いやいやまだいいんだよ、ゆっくりして。旅行者?
何処から?」
店の男性のフレンドリーさに、思わず何のためにリンツに寄ったかの話をした。彼は急に職人的な面持ちで、
「リンツのリンツァートルテはどう?」
「遥々来た甲斐のある美味しさです。」
「それは良かった。実はうちの店はねぇ・・・・」
彼は彼の祖父が始めたこの店の3代目ということだった。オーストリアの歴史が好きで、壁に飾られた古い地図は彼のコレクション、ハプスブルグ家全盛期のヨーロッパ地図だった。「フランスのナポレオンもヨーロッパを制覇したけどね、」と気遣い充分ではあるが、いかに当時のオーストリア(ハプスブルグ)が力を持っていたか、その後現代に至ったかを、時々本に手を伸ばし、頁をめくって写真を見せながら話してくれた。こんな所では聞けない、だがここでしか聞けない興味深い話に、私達はタルトのことも時間もすっかり忘れて聞き入ってしまった。

最後に3代目主人が店の案内カードを記念にくれた。
「リンツに来たらまた寄ってよ。良い旅を」
「ありがとう」
店を出て初めて気付いたのだが、閉店時間はとっくに過ぎていて、ベーカリーでは既に掃除が終わっていた。
リンツでの「リンツのお菓子」の思い出だ。

6 件のコメント:

  1. シャイやぎさん
    思わず唾が出てきてしまい、最後まで飲み込みががら...
    トルテは云うまでもなく、お皿もカップもそのお店の雰囲気に
    ピッタリ!!
    素敵な旅でしたネー羨ましい限りです。

    次回も心待ちにしたますヨ(^_-)-☆

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  2. 珍竹林さん
    アブラカ・ダブルッス・マジクッス
    ↑(奇々怪々ですが、これフランス流お呪いの言葉だそうで)
    パッとパソコンからリンツァータルトをお届けできたら
    いいのに~!

    最近では日本のケーキ屋さんに並んでいることもなります。
    機会があったら是非お試し下さい。
    おいしいどっせぇ~!!

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  3. シャイやぎさん
    お帰りなさ~い!
    PC学校 道中暑かったでしょ!?
    アッ、愛車なら涼しいカナ~

    アブラカ・ダブルッス・マジクッス
    なんどもとなえまっせ~(-。-)y-゜゜゜

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  4. 昨日旅から帰られたばかりの様な楽しさ溢れるお話、美味しい出会い、素敵な出会い、良い旅をされましたねえ。
    こういうのを読ませていただくと、旅の記憶って宝物ですね。しばらくぶりにお尋ねしました。つづき楽しみです。

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  5. 珍竹林さん
    毎日お暑うございます。

    PC学校、段々カオスに入ってきました。
    チンチンプンカンプン・・・・。
    私のPC、フランス製だからキーボードの配置も違って、
    お国が違うとこんなに不便。
    でも何とかがんばりまっす。

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  6. みいちゃんさん
    旅の記憶をこうやって残せるというのは貴重です。改めて思い出しながら、「くくくっ」と一人で笑ったりしています。
    それにしてもやっぱり食べ物になるとタイプが自然にリズミカル・・・・!

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