2011/06/12

若杉山の見える風景

若杉山山頂からの眺め
2階のマイルームから毎日見えるのはアルザスのVosges/ヴォージュ山脈ならず、糟屋郡の若杉山。
「若杉山が近くに見えるから、後で雨になるよ」
「若杉山の頂が見えてきた。天気になるね」と地元の人々には馴染み深い山で、かの菅原道真を祀った太宰府天満宮の後ろに聳える宝満山まで、三郡縦走といって一日がかりになるが、縦走もできる。
この若杉山、日本各地の多くの山々と同じく、唯の「山」ではない。山頂に伊弉諾尊(いざなぎのみこと)を祀った太祖宮/たいそぐうがある。神功皇后(西暦170-269年)が朝鮮半島出兵の為祈願し、その時手折ってお守りとした神木を、凱旋の後、香椎宮に植えた。今の香椎の綾杉だ。その綾杉を神明加護の御礼に再び枝分けして太祖宮の山に植えたことから「分け杉山」と言われるようになり、それが訛って「若杉山」となったのが名前の由来らしい。
また後年、弘法大使/空海(774年-835年)が真言密教を悟り、唐の国(中国)より帰国して訪れたことでも知られ、山頂から少し下ったところには弘法大使を祀った「若杉奥の院」があり、篠栗霊場八十八ヶ所巡りの番外札所となっている。
こうして若杉山は古来より山岳信仰や真言密教の聖地として、修行の場ともされてきた。そのため伝説やそれにまつわる見所も多い。その一つが挟み岩だ。

先日遥々、ロンドン滞在時からの友人が家族で会いに来てくれた。彼女もヨーロッパ、中東各国に住んだことのある移動人で実家は東京、九州は初めてという。近場を案内・・・と思いついたのが若杉山だった。前回会ったときは3歳だった彼女の息子は13歳になり、背丈は既に私以上、それでもエンジェルのような笑顔は変わらず、挟み岩の話をすると目を輝かせて面白がった。
挟み岩というのは山頂から若杉奥の院へ向かう途中にある、鎖が渡された幅30センチの奇岩で、善人しか通れないという、ヒヤリとするようないい伝えがある。
「じゃあ悪い人が通るとどうなるの?」
「岩が閉じてきて挟まれてしまうのよ。怖い?」
「怖いなぁ。僕通れるかなぁ。大丈夫だと思うけどなぁ。どうだろう。」
よし、行ってみようということになった。若杉山はふもとからの登山もできるが、奥の院遥拝所まで車で登ることもできる。それでも山頂への最後の詰めはかなり急な坂を登らなければならない。山に慣れない友人家族にとってはコクだったようだが、それでも杉の香りに満ちた瑞々しい緑の中何とか登り切り、太祖宮を参拝した後、いよいよ挟み岩へ向かった。
「こんなの通れない。無理だ。助けて!」
「大丈夫、そこに足をつけて、今度はこっち。鎖をしっかり握って。」
パニックと興奮、恐れと達成感、予想以上に楽しみながら無事に皆通過でき、若杉奥の院へたどり着いた。奥の院には弘法大使の独鈷の一撃で岩間から湧き出したとされる霊水「独鈷水/どっこすい」がある。癖のない軟らかい味で、そのまま飲むことができる。これまでに一度も枯れたことがないらしく、この霊水で高熱が下がったことがあると傍にいたお遍路さんが教えてくれた。ちょうど水分を補給したいところでの有難い水、思わず「もう一杯」とお代わりしたくなる。

次に遥拝所の駐車場に戻って更に走ること数分、隣の米ノ山山頂に着く。米ノ山はパラグライダーの発進基地としても知られ、見晴らしが良く、山あいの鳴淵ダムや駕与丁池をはじめ、その向こうには福岡市街や博多湾を眺めることができる。夜景のスポットにもなっているらしく、夜は若者カップル車が多いらしい。が、昼はお弁当を広げるのに最高の場所である。

ゆっくり絶景パノラマを眺めながらおにぎりを食べた後、今度は山中にある「大和の大杉」を見に行った。若杉山には、「大和の大杉」「トウダの二又スギ」「七又杉」「ジャレ杉」「綾杉」など樹齢500年以上の巨大杉があり、森林浴をしながら大杉群を巡る遊歩道が整備されている。その中でも「大和の大杉」は樹高40メートル、幹周16m15cm、根元近くから5本の幹に分かれている為、5本の杉のように見えるが、実は1本という巨大杉。地元の人が知っていたとはいえ、平成13年に確認されるまで人知れず、山中でひっそりと長い長い年月を過ごしてきた。いったい何を見て何を感じてきたのだろう。若杉山が古代から霊峰とされてきた由縁か、木の精に問いかけたくなるような神秘を感じる大木だった。

自然すぎて日本にいると当たり前のようだが、神と仏が闘うことなく同じ山に共存できたのは、結局は山に宿る自然の不思議の力とそれに対する人々の尊敬の念からではないだろうか。
それを源とすれば神も仏も仲間でしかない。そんなことを考えながら、森林セラピーを満喫し、心地よい疲れを感じながらも体の奥にエネルギーが充電されたような気分で帰路についた。
天気も良く、友人家族も大満足で、すっかり若杉ファンになったようだった。

7 件のコメント:

  1. さすが九州ですねえ。古事記の神々が出てきましたね。山や石、木に神が宿ると自然を大切にして生きて来た祖先を思いますね。素晴らしい景色と森林浴、お友達との交遊、楽しそうで嬉しくなります。

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  2. 慣れ親しんだとはいえ、私も今回知ったことばかりです。
    ブログのお蔭で意外な地元再発見が色々出来そうです。
    古事記の神々が・・・、古代の皇族が・・・と思うと興味をそそられます。この近くには神功皇后にまつわる伝説、場所が色々あるようです。それにしても古代の日本女性は・・・強く賢かったのですね。この点にも興味!

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  3. ちょっと調べたくなる、注意して周りを見回す・・ブログの効用ですね。かって女性は太陽だった!期待しています。

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  4. みいちゃんさん
    太陽だった・・・と思うと出来ないことはないって明るく元気になりますね。
    梅雨のジメジメにも負けていられません!

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  5. 珍竹林さん
    せっかくコメントを入れていただいたのにアップされずにご迷惑おかけしています。今CHROMEからの方法で入れています。これで旨く繋がるといいのですが・・・!!

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  6. 戻ってこられても紀行文健在ですね。
    「分け杉」の謂われ面白く拝見。
    わが故郷、日向の高千穂も岩や木や泉などありとあらゆるところに神代の謂われがあります。

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  7. しゅん吉さん
    高千穂には昔、車を運転して行ったことがあります。
    「神々の国」という言葉ぴったりの雰囲気がある土地ですね。
    特に高千穂峡の美しさには神々の存在を素直に信じたくなるほど。
    実は今回も九州のイチオシで友人家族を連れて行きたかったのですが、
    ブランク運転に自信がなく、断念した次第でした。

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