2011/01/29

アルザスの愉快な動物たち

Rue des abeilles(ミツバチ通り)、 Chemin des Ecureuils(リスの小径)などと微笑みたくなるような 名前の通りを登りつめた丘の上、前がトウモロコシ畑、横が森という環境に今の住家がある。そのため野生の動物にお目にかかることも多い。
まず可愛いのがリス。濃茶色と赤茶色の2匹が常連で、木の枝から枝へいつも忙しそうに走り回っている。珍しいといえば狐や鹿。庭の置物コウノトリを仲間と 間違えて、ホンモノのコウノトリが空から舞い降りてきたこともある。全然動かない仲間の様子を見て、
こりゃ違う~!とばかりに飛び去った。ミミズは庭中にもこもこと小さな土のアートを作り、モグラもいる。
コウモリもフクロウもカラスもいる。ここはとても静かで、何とも賑やかな場所である。
その中でもイノシシには、昨年秋から芝生を荒らされ、参っていた。芝生が土ごとひっくり返されてしまうのだ。人間の髪の毛を撒くといい、というお婆ちゃんの知恵のお陰で、フェンス内の庭は荒らされずに済んでいるものの、「イノシシめ!」と思っていた。

ところが・・・・

アルザスお得意のカラリと晴れた先日の日曜日、気温は零度と冷たかった。通常静まり返った 日曜日の朝なのに外が騒がしい。ブーブー壊れたおもちゃのラッパのような音が響く。何事かと窓から外を覗いた瞬間、庭のフェンスの向こうに大きな物体!ハンターから逃げ延びようと必死な、それはそれは必死なイノシシの姿であった。犬の吠え声と共に数人のハンター達が後方に近づいてくる。イノシシはフェンスを越えられないことが分かると大きな身をひるがえし、また森の中へ消えていった。にっくきイノシシではあったが、撃たれて食べられると思うと助けたくなるのが人情だ。身を案じながら耳を澄ませていたところ、銃声は響かなかったので、どうにか逃げ切ったのだろうと思う。しばらくすると、がっかりムードのハンター達が畑を横切って行くのも見えた。

フランスでは勿論イノシシを食べる。狩りの楽しみの後は食の楽しみ。収獲があればワインと共にイノシシパーティとなるのは間違いない。残酷ではあるが、動物保護の観点からは別にして、
人類とはこうやって厳しい自然の世界を生延びてきた動物、というのも事実だと思う。
殺生をせずして生きてはいけないのが、悲しいかな人間である。

ところでイノシシもイノシシ、大危機を逃げ延びたお祝いに、今夜あたり仲間とパーティを繰り広げることになりそうだ。また芝生が・・・まぁ芝生ぐらい仕方ない。生延びたのだもの、派手にやってくれ~!という気になってしまった。

2011/01/25

JACKY CHEVAUX/ジャッキー・シュヴォ展

MULHOUSEのMusée Baux Art で開催されていた、 "Dans l'esprit de Jacky Chevaux" (ジャッキー・シュヴォのエスプリの中へ)展に行ってきた。
JACKY CHEVAUX はアルザス・ミュルーズの
画家で、1995年 52歳という若さで既に亡くなっている。このエキシビジョンは、Mulhouseを離れることなく活動し、地元の美術教育に貢献した、彼への敬意と称賛を記念して開催されたもので、80点もの彼の作品が展示されていた。

「な~んだ。フランス片田舎の地元画家展か」と思う事なかれ!作品を見て、その精密さと限りないファンタジー、絵に込められたスピリチュアルな数々の暗示に、私はすっかり魅了されてしまった。シューレアリストと言えばダリを思い浮かべるが、そのダリもジャッキーのことを才能豊かだと称賛したそうである。1967年には共同のエキスポも開催され、話題を呼んでいる。

幸運にも会場では、JACKYの美術学校の生徒であった女性とCHEVAUX夫人が、2班に分かれてガイドをしてくださった。どちらもの話が聞きたくてウロウロしてしまったが、結局はじめに付いた元教え子のガイドをたどりながら、彼のそれぞれの絵のテーマや、共通してよく登場する魚が人類の起源のシンボルであり、表・裏、別の世界への橋渡しの役割をしていることなどを教わった。
彼は一生を通じて「死」というテーマを探求し続けたらしく、仏教哲学にとても興味があったらしい。私は彼の創作の世界全体に、グロテスクにもなりかねない超現実な絵の中にさえ、どこかしら慈しみの心を感じる。その心が完璧なまでの精密な絵にエスプリを与えているような気がするのだ。

地元なだけに鑑賞には、JACKYの知り合いだった人も一般に混じっていた。立ち話が始まると口々に、才能だけでなく人柄も素晴らしい画家だったと語り、見知らぬ人同士、同じ感動を共有しながら会話が弾んだりもした。会場はとてもアトホームな雰囲気に包まれいた。
それだけの才能があり認められながらも、国際的な超有名画家に至らなかったのは(多くの人々の疑問でもあった)、積極的な宣伝活動に全く興味がなかったかららしい。その点にも私は彼の素朴さを感じる。それでも彼のギャラリーはスイス、ドイツからの顧客も多く、充分に成功した画家である。

アトリエ再現
          

ガイドの終わりに、鑑賞者の一人が元生徒に尋ねた。「ところでさぁ、先生としてJACKYは生徒達にどんなだったの?怖かった??」彼女の顔が急に真剣になり、「決して!怖いなんてとんでもない。そりぁ~素敵な 先生だったわ。私達の中に積極的に入ってくれて。
口数は少なかった。でも 三言発するその三言ともが大ウケするのよ!そんな先生だったわ。」と語ってくれたのが印象的である。

尚、このブログ上に載せている写真は全て、美術館で許される範囲(フラッシュなし)ながら私の粗末なデジカメで撮ったものです。まだ日本語のサイトがないようですが「JACKY CHEVAUX」で検索してみてください。英語やフランス語が分からなくても彼の数々の絵が楽しめます!

2011/01/24

MULHOUSE/ミュルーズの博物館と美術館

クリスマス・新年が過ぎるとお祭り気分も抜け、町はすっかり静かになる。
アルザスは、カーニバルまでのこの間が一年で一番静かな時期かもしれない。
但し冬至を越しているので、日照時間は日々確実に長くなっていく。夕方5時過ぎに空を見上げ、 
「あぁまだ明るい・・・」というだけで、私はちょっと救われたような気分になる。

Musée Historique de Mulhouse
出不精になりがちな寒い冬の気分転換に、私は美術館や博物館に行くのが好きだ。
ミュルーズ ストラスブールやコルマールと違って、観光の目玉がない。旅行の単なる通過点になりがちだと思う。仕方ない部分はあるものの、意外と充実しているのがこの美術館と博物館。19、20世紀と産業が発達した町なので、大金持ちとなったオーナーのコレクションが何とも大規模だ。 Musée National de l'Automobile Mulhouse には500台もの クラシックカーが揃い、   世界一を誇るらしい。必見!通過するにはもったいない博物館である。またMULHOUSE駅前という便利な場所には、布地プリント博物館Musée de l'Impression sur Etoffes があるし、バスで20分ほどのRIXHEIMには Musée du Papier Peint de Rixheim があり、これまた壁紙としては世界一の     コレクションらしい。MULHOUSEの中心広場に面した旧市庁舎の1階はインフォメーションになっていて、その2階、3階は Musée Hisorique de Mulhouse MULHOUSEの歴史博物館で、2階の   大広間は今でもミュルーズ市民の結婚式で使われている。入場無料なのもうれしい。
Musée Beaux Art Mulhouse は、スタインバッハという実業家の旧私邸が美術館になっている。それほど大きくはないが、アルザス地方らしい常設絵画とアルザス出身アーチストの特別展示もあり、 そのどちらもが入場無料。通常は見学者も少なく、貸しきり気分で絵画が楽しめる。

先日私は、Beaux Art JACKY CHEVAUXのエキシビジョンに行ってきた。
彼のことを何も知らず、全く期待などせずに入ったところ、その素晴らしさにすっかり感動してしまったので、詳しくは次回でたっぷりと紹介することにする。