NHKのBSプレミアム「猫のしっぽ カエルの手」という番組の「京都 大原 ベニシアの手作り暮らし」では、大原に住むイギリス人ベニシアさんの自然溢れる暮らしが紹介される。日本の伝統・文化を大切にしながら、日本と西洋とが絶妙に融合した手作り暮らしだ。実際にやるとなると大変な労が必要とされる暮らしだと思うが、見ている分にはリラックス出来て楽しい。
先日その中でベニシアさんが、庭に咲いたハーブの青い花「ポリジ」はそのままサラダに入れて食べれる花だと紹介した。
「マルタの花だ!」懐かしく、心が一気にアルザスに飛んだ。「C'est vraiment gentil /ご親切にありがとう。すぐ近くよ。重くはないのだけど、今日は暑すぎるわね」
世間話をしながらゆっくり数分で彼女の家の前まで来た。ご近所さんだった。門の前で引き返そうとすると、庭に野菜を植えているからくれると言う。
いやいやそんなつもりはないと断ったら、声をかけられたのがとても嬉しかったからだと言い、私が日本人だと分かると更に、昔日本に旅行したことがあると、その時の旅の話をあれこれ話しはじめた。先ほどの老女は何処へやら、とても85歳とは思えない、小さな体にエネルギー溢れる、会話もシャープでウィットにとんだマルタというアルザシアンに変わっていた。
それから私達の近所づきあいが始まった。彼女は裏庭に広い畑を作っていて、行く度に色々な新鮮野菜や旬のベリー、ハーブなどを気前良く取ってくれた。どれもがスーパーの野菜など比べ物にもならないほど味があり、ズッキーニも生のままサラダにして美味しく食べれることを教えてもらった。タンポポについて聞いたのも彼女だ。野菜や果物、植物、動物に詳しく、世界中を旅したことのあるユニークな女性で、定年まで公務員として働いた職業婦人でもあった。実は60年連れ添ったというご主人が10ヶ月前に亡くなり、気落ちしていた時期だったそうだが、気丈に明るく、いつも忙しく体を動かしていた。
ある日、そんな彼女の野菜畑に小さな星の形をした青い花が咲いているのを見つけた。茎の部分がふさふさとしていて可憐な花、何気なく見ていたら彼女が行った。
「好き?それも持って行きなさい」
「可愛いけど、花は切らずに庭に咲いているのを眺める方がのいい」
「何言ってんの。食べるのよ」
「食べる?」
「知らないの?サラダに入れてそのまま食べれるのよ。ストレスに効くし、体にいいものがいっぱい。美味しいから。」そう言いながら手際よく摘み取ってくれた。
食べるにはもったいないほど可愛い青い星の花、サラダにする前に写真を撮ったものの、教えてもらった名前を忘れてしまい、書き留めておけばよかったと日本に帰国して後悔していたところだった。
ベニシアさんのお蔭でその名は「ポリジ」、フランス語ではBourrache/ブラッシュだと分かった。
ムラサキ科の一年草、地中海沿岸原産のハーブで、カルシウムやリン、ミネラル成分を含み、古くから薬草としても利用されてきたらしい。別名を瑠璃萵苣(るりちしゃ)、スターフラワーともいう。
紫に近い青い花、マルタの少女のような青い目を思い出す。私の中ですっかり「マルタの花」になっていた花だった。







